「共感力が高く、相手の痛みや思いを汲む能力に長けているHSPには、介護職が向いているといわれているけど、実際どうなのかな……?」
結論から言いますと、適職とは言えません。
これは介護業界で7年働き、国家資格である介護福祉士を取得したHSPのボクと、現在も介護業界で働き続けている友人たちの正直な意見です。
その理由は「介護業界はまだまだブラックなところが多い」からです。
ただ、HSPの特性が介護職に向いているということは事実だと思うので、
- HSPの特性は介護職には向いているのに適職とは言えないという矛盾について。
- HSPが介護業界で働くならばどのような働き方が最適と言えるのか?
- ホワイトな介護の職場の探し方。
について明らかにしていきたいと思います。
(注)
決して超・超高齢化社会日本を根底から支えている、現役HSP介護士の方々を否定しているわけではありません。
HSPの方がなんの予備知識もなしに介護業界に飛び込み、辛い思いをしないためにこの記事を書きました。
もくじ
HSPの特性は介護職には向いているのに適職とは言えないという矛盾
HSPは相手の思い、痛み、辛さを敏感に感じることができ、目配り・気配り・心配りが得意です。
しかもまじめで責任感が強いため、仕事で手を抜くことが苦手です。
そのためHSPが介護職として働くことは、介護の質の向上につながることは間違いありません。
なのに、「HSPには介護の仕事がおすすめ!」とは言い切れない現状と矛盾について解説します。
理由①ブラックな介護の職場が多い
現在の介護業界はブラックなところが多いのが現状です。
どのようにブラックなのかと言いますと、
・低賃金:手取り20万円以下
・長時間労働:サービス残業50時間/月以上は当たり前
・慢性的な人手不足:離職率が高くシフトを組めない
・有給が取れない:有給は体調が悪い時に取るもの
・激務:人手不足なのに排泄介助や入浴介助など重労働が多いため、腰痛・膝痛・腱鞘炎・慢性的な疲労感が絶えない
・人間関係が悪い:激務で疲れ果てているため心に余裕がない
・介護職を「捨て駒=ある目的(お金を稼ぐ)を果たすために払われる人的犠牲」としてしか考えていない施設や事業所が多い。
なので、繊細でまじめで責任感が強いHSPは疲れ果ててしまい、燃え尽き症候群に陥ってしまう可能性が高いのです。
ボク自身も何度も「なんでこんなに疲れが取れないんだ……」「まじめに働かなきゃならないのにまったくやる気が出ない……」という抑うつ状態、燃え尽き症候群に陥ってしまったことが何度もありました。
理由②生活のリズムが乱れやすいシフト勤務は向かない
介護の仕事は上記のようにブラックなところが多いだけではなく、特別養護老人ホーム・老人保健施設・有料老人ホームなどの介護施設ではシフト勤務が基本です。
生活のリズムの乱れの影響をダイレクトに受けてしまうHSPには、シフト勤務は向いていません。
また、介護施設でのシフト勤務では、必然的に夜勤をやらなくてはなりません。
夜勤による健康被害として、睡眠障害・糖尿病や高脂血症などの生活習慣病・発ガンのリスクが格段に高くなることが知られています。
HSPの場合はとくに、生活のリズムが乱れるということは心身ともに大きなダメージがあります。
しかも、夜勤=夜働くということは、想像以上にメンタル的なダメージが大きいです。
なのでHSPの方は絶対にやみくもに介護業界に飛び込んではいけません。
ひとえに介護の仕事と言っても夜勤のある施設勤務以外にも、昼間だけ働けるデイケア・デイサービスというような多様な働き方があるのです。
介護業界で働いてみたいという気持ちがあるHSPの方は、「夜勤のない介護施設」=デイケア・デイサービスという働き方を覚えておいてください。
介護の仕事はHSPの特性が生かせるというのも事実
一般的に「HSPは介護職に向いている」と言われるには、それなりの理由があります。
その理由について、ボクの実体験から解説してみたいと思います。
リスク管理能力が高い
高齢者の方の転倒・転落・誤嚥などの事故を未然に防げたり、体調が悪い高齢者の方に気づきやすいのです。
また、認知症の方の離設(施設から出て行ってしまうこと)を未然に防ぐ能力も高いです。
人間関係の潤滑油になる
介護の仕事は対人サービスです。
人の思いや体調を敏感に察することができるHSPは、高齢者の方、介護職同士の人間現関係を良好に保つ潤滑油になります。
まじめで責任感が強い
介護サービスの対象の方となる高齢者の方々は、持病を複数抱えている方も多いです。
なのでいい加減な対応ではすぐに命の危機に関わる場面(食事介助・入浴介助など)も少なくありません。
介護業務を責任感を持ってまじめにこなすHSPは、質の高いケアサービスを提供することができます。
HSPに向いている介護の現場とは
HSPのあなたに介護の仕事を安易にお勧めすることはできません。
ですが、「HSPの特性を生かせる介護業界で働いてみたい」と思われるあなたに知っていただいてほしい、HSP向けの介護の現場を2つ紹介します。
日勤のみのデイサービス・デイケア
一般的に「デイ」と言われるのが、デイサービス・デイケアでの介護の仕事です。
シフト勤務ではありますが、勤務時間8時~18時の中で早番・遅番の2交代制のところが多いです。
業務内容は夜勤のある介護施設とほぼ変わりませんが、利用される高齢者の方々の介護度が低いため、身体的な負担は少ないです。
デイサービス・デイケアの違いとは?
この二つの通所サービスの違いを一言でいってしまえば、「リハビリがメインか・メインでないか」ということです。
デイサービス(通所介護)
- リハビリテーション専門職員の配置が義務付けられていない。
- 利用者の方は日常生活の介護を受けるために通所する。
- 認知症の方、高齢(90歳以上)の方が多い。
デイケア(通所リハビリテーション)
- 理学療法士(PT)や作業療法士(OT)などのリハビリテーション専門職員の配置が義務付けられている。
- 利用者の方はリハビリを受けて心身機能の維持・向上を図るために通所する。
- 認知症の方は少なく、比較的元気な方が多い。
- 認知症の方の介護に興味がある⇒デイサービス
- リハビリテーションに興味がある⇒デイケア
という感じで選べばいいと思います。
ちなみにボクは一つ目の介護施設(老人保健施設=老健)ではフルシフト勤務で夜勤もこなしていましたが、転職後の老健ではデイケアで働きました。
「夜勤がないだけで、こんなに心身の負担が少ないのか……」と思いました。
心身の負担が減ったため、次の段階=作業療法士への道を選択することができたのだと思います。
ただ、夜勤がない=夜勤手当がつかないため、給料が少なくなってしまうというデメリットがありますので注意が必要です。
激務ではない高級有料老人ホームでの仕事
高級有料老人ホームの入居者の方々は富裕層の方が多いため、介護知識・介護スキル+「接遇スキル」が必要とされます。
高級有料老人ホームの介護サービスには、「接遇の質」がとくに重要視されるのです。
まじめで責任感が強く、相手の思い、痛み、辛さを敏感に感じることができ、目配り・気配り・心配りが得意というHSPの能力を活かすことができるのです。
高級有料老人ホームこそが、HSP介護士としての能力を最大限に発揮できる現場なのではないかと思います。
また、高級有料老人ホームは特別養護老人ホーム老人保健施設に比べ、利用者の方の入居費用が高額であるため、介護職の潤沢な人員配置のところが多いのも特徴です。
なので激務ではなく、必然的に夜勤の回数も少なくなりますから、生活のリズムも乱れにくくなります。
現在も高級有料老人ホームで働き続けている友人の話では、夜勤はひと月に3~5回で、夜勤業務も老人保健施設時代とは比べ物にならないぐらいに楽だということです(自立度の高い入居者の方が多いため)。
しかも給料が35万円前後と介護職としては破格です(作業療法士であるボクよりもはるかに稼いでいます)。
ただし彼の場合は介護士経験10年以上で、介護福祉士という国家資格持ちなので、経験の浅い介護士がいきなりこれだけの給料を手にできるわけではありません。
デイサービス・デイケアで介護職としての知識+スキル+経験を身に着け、介護の資格(実務者研修or介護福祉士)を取得。
その後、高級有料老人ホームへの転職を果たすというのが効率的であり、介護職として働きたいHSP向きの方法であると思います。
HSP向けのホワイトな介護の仕事の見つけ方
介護職を目指すHSPというとても貴重なあなたの資質、可能性、時間を無駄にしないためにも、ハローワークやネットの求人情報だけを頼りに介護職に転職してしまうのは、絶対にやめなくてはなりません。
「じゃあ、どうしたらHSP向けの介護の職場を見つけられるの?」
その2つの方法をこれから解説します。
介護施設でボランティアをしてみる
HSPのあなたが「自分に合った働きやすいホワイトな介護の職場」を見分ける方法で、一番確実だといえるのが、その介護施設(特別養護老人ホーム・老人保健施設・有料老人ホーム・グループホーム)などで募集している、ボランティアに参加してみるという方法です。
介護施設はどこも人手不足で、だいたいの施設ではボランティアを募集しています。
一般的な介護施設では週1回、2~3時間からボランティアが可能です。
ボランティアの内容としては、傾聴(けいちょう:お話相手)、囲碁・将棋・麻雀の相手、手芸(陶芸・籐細工・折り紙・編み物など)の先生や助手、レクリエーション活動の手伝いなど様々です。
「私は特別な技術も経験もないから、何もできない……」とあきらめる必要はありません。
傾聴ボランティアはとても需要が高く、必要とされるので心配いりません。
介護施設でボランティア活動をすることによって、
- 施設の雰囲気
- 業務内容
- 人間関係
- ブラックなのかホワイトなのか
を内側からじっくりと観察できるので、「自分に合う職場なのか?」ということを検討するには最適な方法であるといえます。
HSPのあなたならばその特性から、多くの情報を得ることができるでしょう。
「でも、ボランティアをはじめたら辞めにくいのでは?」という心配も大丈夫です。
ちょっと残念がられてしまうかもしれませんが、強い引き留めに合うことなどはありません。
介護職専門の転職エージェントを利用する
HSPの方が介護職専門の転職エージェントを利用するのは、正直「諸刃の剣」=メリットとデメリットの差が大きいといえます。
メリット
- 利用は無料
- 希望条件(通勤時間・給料の額・未経験・勤務体系)に合った求人を探してくれる
- 介護業界について教えてくれる
- 面接時に同行してくれる
- 待遇面の交渉を代行してくれる
デメリット
- 電話が頻回にかかってくる
- 質の悪いエージェントに当たってしまうことがある
=ゴリ押しで就職させようとする。
=希望条件以外の求人も紹介される。
=アフターサポートをしてくれない(無責任)
介護職専門の転職エージェントの利用は無料です。
なぜ無料なのかというと、求人をしている介護施設や事業所に介護士を紹介することで、紹介料を得られるからです。
ということは、介護士を就職させてなんぼ=紹介しないと稼げないわけなのです。
なのでエージェントの中には金儲け根性丸出しで、ゴリ押しで就職させようとする人がいることも事実なのです。
転職時に介護職専門の転職エージェントを利用してきた、現役介護士である友人たちの意見としては、介護職専門の転職エージェントはあまりいいうわさを聞かないところが多いというのが正直な意見です。
介護職専門の転職エージェントは利用しないほうがいい?
介護職専門の転職エージェントは絶対に利用しないほうがいいのか?というと、そういうわけではありません。
利用する側として要領を得ていれば、時間とお金を節約することができるからです。
たとえば、かいご畑という介護職専門の転職エージェントは、介護業界で働いていくのに必須な資格である「実務者研修」を無料で取得することができます。
実務者研修は自費で取得する場合は15~20万円の受講費用が必要となります。
しかし、かいご畑に登録して「半年間」派遣として働けば、その受講費用が無料になるのです(「正社員」では実務者研修を無料で取得できるサービスは利用できないため注意が必要です)。
また、かいご畑は介護職未経験・無資格に対応した求人も多く取り扱っているため、登録したのに働き口がない!というリスクも少ないです。
ただし、かいご畑も他のエージェントと同様に、上記のようなデメリットがあることも事実なので、HSPのあなたが「このエージェントは信用できないかも……」と感じたら、エージェントをチェンジしてもらうか、利用を中止したほうがいいでしょう。
派遣介護士として働くメリットとデメリット
まず知っておくべきことは派遣=非正規雇用です。
HSPのあなたが派遣介護士として働くことのメリットとデメリットについて、分析して解説します。
派遣介護士のメリット
- 「ココは私には合わない」と思ったら、2~3ヵ月で次の職場(派遣先)に移ることができる。
- 退職時の手間(退職届や引継ぎ)がない。
- 様々なタイプの介護の仕事(特別養護老人ホーム・老人保健施設・グループホーム・有料老人ホーム・デイケア・デイサービス・サービス付き高齢者向け住宅など)を、効率的に体験して自分に合った働き方を選ぶことができる。
- 派遣として働きながら介護職としての経験と資格を手に入れることができる。
- サービス残業がない。
- 有給休暇をとりやすい。
- 派遣先から正社員雇用の提案を受けることがある(やたらと勧めてくるところは要注意)。
派遣介護士のデメリット
- 正社員でないため不安定であり、まれに派遣切りに合うこともある。
- 派遣期間には上限がある(同じ職場では3年間しか働けない)。
- ボーナスがない(同一労働同一賃金の導入で変わるかもしれません)。
- 正規雇用(正社員)ではないという後ろめたさがある。
HSPにとっては、派遣介護士として働くことは大きなメリットがありますが、デメリットもあることも事実です。
派遣介護士として働いてお金を稼ぎながら、自分に合った介護の仕事・職場を探す。
そして「ここなら安心して働けそうだ」というところに正社員採用をお願いしてみるという方法が、HSPのあなたが介護業界で安定して働くための効率的な方法であると思います。
絶対に「正社員採用」というエサにつられて、勢いに任せて就職をしてはいけません。
「未経験・無資格でも正社員採用!」というところは、それだけ人手不足で困っている=離職率が高い職場=職場環境・人間関係が最悪=ブラックな職場だといえるからです。
現在の介護業界はHSPにとって適職とは言えないけれど解決策はある
現在、日本の介護業界はまだまだブラックなところが多いため、「HSPの特性は介護職に向いているのに、適職とは言えない」という矛盾した現状であるのが現状です。
ただし、日本社会は超・超高齢化の道を突き進んでいて、介護職の需要はとても高く、介護職の処遇改善が進んできていることも事実です。
HSPの特性を介護業界で生かしてみたいというあなたの志を、ブラックな職場で蝕まれてしまうような事態は絶対に避けてほしいのです。
介護施設でボランティアをしたり、かいご畑のような介護職専門の転職サービスを上手に利用し、ホワイトな介護の職場をじっくりと探してください。
そして、HSPのあなたが「ココなら安心して働ける」という場所を見つけてください。
HSPの特性は介護職には向いていますが、現在の介護業界はHSPには向いていないブラックなところが多いということを肝に銘じ、慎重に就職活動をしてください。